固体パラ水素の放射線化学

固体パラ水素の放射線化学

研究テーマ

  • Aerogelを用いた溶質分子の固体パラ水素導入による高分解ESR分光
  • 固体パラ水素中のH6+の同位体濃縮反応のo-H2濃度依存性
  • 固体パラ水素中のH原子拡散の同位体依存性

オルト水素とパラ水素

 水素分子からなる結晶である固体水素は,最も単純な分子結晶でありながら,その量子性が顕著に表れる非常に面白い固体です.
opH2.jpg
 水素分子にはその核スピンと回転状態に対応するオルト水素(o-H 2 )とパラ水素(p-H 2 )があります.
o-H 2 は,合成核スピンI = 1, 回転量子数J = 1, 3, 5, •••の状態をとります.
p-H 2 I = 0, J = 0, 2, 4,•••の状態をとります.常温でボンベに入っている水素分子の構成比は,o-H 2 : p-H 2 = 3 : 1となっています.
rotatE.pdf
J = 0と J = 1のエネルギー差は170 Kあるため,数K程度の極低温においては,J = 0が安定状態となります.しかし,o-H 2 からp-H 2 へとかわる核スピン転換は禁制遷移であるため,この水素ガスを単純に冷やしただけではp-H 2 へはなかな転換しません.しかし,液体状態でFeO(OH)のような反強磁性物質と接触させると,禁制遷移が破れて転換可能となり,99.9%以上のパラ純度のp-H 2 を作り出すことができます.

固体パラ水素をESR分光用マトリクスに用いる

 固体p-H 2 はhcp構造でその格子定数は3.79 Åと固体Arのそれ(3.6 Å)よりも大きな値をとります.これは,ゼロ点振動エネルギーが大きいことに由来します.固体p-H 2 では,核磁気モーメントが消失していて電気四重極モーメントもありません.従って,固体p-H 2 をマトリクスとして着目分子の磁気共鳴や赤外分光を行うと,液相あるいは気相並みのシャープなスペクトルが得られます.
Ethyl radical ESR.001.jpg
左図の上には固体パラ水素中のCH 3 CH 2 IのUV分解によって生成したエチルラジカルのESRスペクトルを示しました.測定温度は5 Kです.この固体パラ水素中のエチルラジカルの信号の線幅は,液体エタン(135 K)を電子線照射しながら観測されたエチルラジカルのそれとほぼ同じレベルです.液相では着目分子があらゆる方向に回転することにより,その異方的磁気モーメントは消失して等方的な成分のみがスペクトルに残り,シャープな信号を与えますが,固体パラ水素中では,異方的磁気モーメントに由来するピークの構造をもったまま液相並みにシャープな信号が得られます.

固体パラ水素中の放射線化学反応

固体水素が電離放射線を受けた場合の放射線化学反応を考えてみましょう.単独の水素分子の第1イオン化エネルギーは15.4 eVですので,それより大きなエネルギーを吸収すると原則としてイオン化します.

  • H2 −radiation→ H2+ + e– (1)

Co60からのγ線光子のエネルギーは1.17, 1.33 MeVで,そのエネルギーがコンプトン効果によって1つのスパーにつき約50〜100 eVのエネルギーを固体水素に与えながら,自分の光子のエネルギーは下がってきます.また,イオン化によって飛び出た電子は,高エネルギーの2次電子としてますので,これらは固体水素内で

H 2 + -core H 6 + とその同位体イオン

2007年に本グループにおいて,単独のH2分子