研究の概要

2017年新4年生向け研究テーマ概要

細胞中の長寿命ラジカルの挙動からみる低線量放射線生物影響
非DNA損傷を起源とする細胞がん化と長寿命ラジカルとの関係

 当研究グループでは、細胞内の長寿命ラジカルが細胞の突然変異誘発や細胞がん化と相関していることを共同研究で見いだし、放射線や紫外線の照射された細胞中の長寿命ラジカルを電子スピン共鳴法で調べてきました。
 2011年3月の東日本大震災で福島第1原子力発電所から放射性物質が飛散したことにより、多くの人が人間的・社会的に被害を受けたことは周知の通りです。その中でも人間の放射線被爆の影響が最も関心の高いことであるのは言うまでもありません。
 放射線の人体への影響を調べるためには、人間に放射線をあててどうなるか調べなければハッキリしたことはわかりませんが、そんなことを実験として行う訳にはいきません。しかし、広島・長崎での原爆被爆者、第五福竜丸被爆者、チェルノブイリ原発の爆発事故、世界中の放射線施設における被爆事故など被爆者たちを調べた結果から、急性被爆(100 〜1000 mSv以上の場合)において、白血病・肝臓がんになる人数が被爆していない集団と比較して有意に増加することは統計的にもほぼ確実になりました。しかし、低線量被爆(100 mSv以下)においては、被爆していない集団と比較しても有意な差がみられませんでした。統計学的に有意な差があるかどうかをハッキリするには調査する母集団の数を増やすしかありませんが、それはできません。
 その代替として、個体ではマウスなどへの放射線影響研究が多くの研究機関で行われていますが、当研究室では、ハムスターやヒトの培養細胞を用いて放射線を照射し、細胞内の長寿命ラジカル濃度を測定して、突然変異や発がんとの関係を調べています。これまでは 1000 mSv以上の急性照射の条件で行ってきましたが、今後は10~1000 mSvの間で実験を行い、発がんとの関係を調べて行く予定です。長寿命ラジカルはビタミンCによって消去することができ、それによって発がんも抑制されますから、放射線があたった後でも発がんを抑制できることになります。細胞レベルでの研究ではありますが、実験結果を積み重ねて人体への影響を予期できるようにしたいと思っております。

長寿命ラジカルによる発がん仮説は次の通りです。

放射線を照射された細胞中のミトコンドリアの機能かく乱→細胞内酸化レベルの上昇とそれに伴う長寿命ラジカル生成→染色体の中心体構造異常→細胞分裂後の染色体数的異常による遺伝子発現かく乱→不死化→細胞がん化

 つまり、DNA損傷が起源ではなく、ミトコンドリアの機能かく乱と長寿命ラジカルによる細胞がん化が重要であるという仮説です。放射線によって損傷したDNAによって細胞ががん化していくということが一般には信じられていますが、多くの場合、このような細胞は死滅してしまいます。
 放射線でなくても、ミトコンドリア機能かく乱や細胞内酸化度を上昇させるような生体内因子があれば、それも細胞がん化を促進することになります。日本では2~3人に一人ががんで死亡していますが、放射線によらない発がんも放射線のよる発がんも、上記の仮説のルートを辿って発がんしているのではないかと考え、そのことを証明して行くために長寿命ラジカルの観測を続けています。
 これは、京都大学放射線生物研究センターの渡邉特任教授、大分大学医学部先端イメージングセンターの菓子野准教授との共同研究です。

光触媒における素反応過程

 TiO2に代表される光触媒は、紫外線や可視光のエネルギーを吸収してホールと電子が生成し、それぞれが反応物の酸化や還元を行って生成物ができるため、光がなければ吸熱で進まない反応を進めることができる事が大きな特徴です。最近の代表例としてはCO2を還元してCOとO2を生成する反応が報告されており、これが工業的に実現すれば工場から排気されるCO2を使ってCOを燃やすことができ、省エネへのブレークスルーになると容易に考えられます。このように光触媒はとても魅力的ではありますが、実際にどのような反応が起こっているのかはわからないことも多く、その素反応解析が期待されております。熊谷研究グループでは、液体ヘリウムを冷媒に用い、触媒に光照射したときに生成するラジカル種を追跡しております。触媒自体の活性種・触媒表面の反応物のラジカルなどを丁寧に追うことにより、その反応過程を明らかにしてさらなる光触媒の高性能化に寄与できることを期待して、触媒の研究グループと共同で研究を進めております。